嘘はときには星降らす

from atelier anmo

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初夏、じじい見る  

先日、我が家の前でじじいが寝ていた。

もうちょっと詩的な表現は無いかと考えてみたのだが、
どう考えてみてもこの言い回ししか思い浮かばなかったので、
もう考えるのを止めた。

やめだやめだ。

よって、じじいがねていた。

いちおう断っておくけれど、
僕の祖父、いわゆるじじいは父方、母方ともに逝ってしまっているため、
そういうのではなく、全く知らんじじいが寝ていたのである。


さかのぼる事、一週間前の事である。


ぼくは朝普通に起きて、いつも通りコーヒーをいれ、
身支度をして家をでた。
天気のよい、良い朝だなと思った。

するとうちとお隣さんの間っこ位のところに
じじいが寝転んでいた。
寝転ぶというよりも、土下座をしながらうずくまっているというような、
そんな体勢でもって彼、横たわっていたのである。

コンクリートの上に大量の広告チラシを広げ、
それがシーツみたいになっていた。

直感的に死んでいるわけではないな、というのがそのときの感想である。
彼の背中は大きく吸ったりはいたりしていた。

一瞬何かに拝礼しているのかな?とも思ったが、
すぐに「絶対ちがう」と思った。なぜならここ僕んちの前だから。


僕は考えた。

1 知らんぷり
2 とりあえず声をかける

この状況で何もしないというのは、冒険家の僕にとって逃げにもとれる姿勢、
よって、2を選択。


「あのう、なにやってんすか?」


一回目の声かけでは聞こえなかったようで、二回言った。
するとじじい、うーんとうなり声をあげて、
顔だけこちらに向けた。やっぱりじじいである。


「いやあ、寝ちゃいました。」


寝ちゃいましたじゃねえよ。
普通に僕はおもった。


「いやいや、何でここで寝てるんですか?」


するとじじい、ちょっと考えてからお隣さんの家を指差して、


「いやね、家内を待っているものですからね」


なるほどね。
いやいや、なるほどじゃない。

お隣は確かに女性が住んでいるが、
30代半ばくらいの方だったはずだ。
だが、結婚しているなんて聞いた事が無い上に
こんなせまいワンルームアパートに二人で住んでいるはずが無い。


彼の嘘は容易に見てとれた。


「鍵は?なんでここにいるんですか?」

「いやね、家内が持ってっちまってね。入れないの」

「で、ねてたの?」

「はい」

「そっかー、大変ですねー、ははは」


ははは、じゃねえよ馬鹿野郎
と自分を心で叱咤しながら、こう思った。


「もう諦めた!」


大丈夫っしょ。
あの人が奥さん待っているっていってるんだから、たぶんそうでしょ。
奥さんも阿呆だなあ、鍵くらい渡しておけば良いのに。

何かもうどうでも良くなってきたので、僕はプラン2から1に変更、
僕は知らんぷりして家を出てきたわけである。

絶対あの人変だけどね。



その日の午後、

僕の携帯電話には、着信が二件、同時に留守番電話にも二件。
アパートの大家さんからであった。

一件目を再生。

「あのう、大家ですけど今田川さん(僕)の家の前に田川さんのお父様が
 待ってらしてね、近所から苦情があったものですからお電話しました。
 一応これ聞いたら折り返しお電話頂けます?」


じじい、あの野郎。


僕は思った。

おそらく僕と同じ状況でお隣さんがおじいを発見、
僕と同じくパニックに陥ったであろうこと必至、
じじいは僕の父に成り済ましたわけである。

僕はそのまま二件目を再生した。

「先程は大変失礼致しました。さっきの件は全て警察が解決してくれました。
 ご迷惑お掛けしてしまい申し訳ございません」


そらそうだ。

おじい、馬鹿だな、とも思ったが、
畜生、やるな、とも思った。
警察のお世話になるくらいなら、うちにこいよ、とは思わなかった。


もう会えないのかと思うとちょっぴり寂しくもなったが
シャバでまたじじいに会う事があったのなら、
そのときは僕がじじいを説教してやる構えである。



空は何も言わず、心無しかいつもより青く染まっていた。



一切はじじいによって風薫る  藻杏

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